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医療・介護現場レポート
〜おひさま通信〜
「おむつゼロ・下剤ゼロ」の取り組み
特別養護老人ホーム 世田谷区立きたざわ苑 様
特別養護老人ホーム 世田谷区立きたざわ苑(東京都世田谷区北沢)では、平成18年に岩上施設長の決断により「おむつゼロ・下剤ゼロ」に取り組むことが決定。
看護・介護・リハビリ・栄養などの多職種連携のチームにより、半年を待たずに実現した。
右から)岩上施設長・齋藤グループマネージャー・安田マネージャー・八重樫マネージャー
(2011年8月現在)
おむつゼロ運動を始めた経緯
(安田看護師)
平成19年の秋ごろ、施設長から突然「下剤を廃止しよう」という指令がやってきました。私たち看護師の業界は意外とかたいものですから、はじめは無理なんじゃないか、という感じに思っていたんですよ。ですから、やるんだったらまずはどこか実際にやっているところを見ようということになり、先に成功していた静岡にある介護老人保健施設を、相談員と看護師2名の合計3名で見学することになりました。
実際にお話を聞いて、これならやれるかな、という感じになりましたので、早速持ち帰って「こういう取り組みをやりたい」ということを看護チームに伝え、意思統一をしました。
開業医の先生方には、無理な方だけはやらない、ということを説明し、了解を得て取り組み始めました。
初めに入所者100人全員に2週間のアセスメントを行ない、排便の周期を把握しました。そして、下剤の廃止に取り組みました。下剤廃止検討委員会を立ち上げ、管理栄養士の八重樫さんも含め、全員違う職種が入って検討しました。またマニュアル作りも皆が参加して行ない、できたマニュアルは看護師、介護士も含め全員に配り、意思統一を図りました。
現在の取り組み
(安田看護師)
新しく入所された方は、入所前に主治医と相談し、入所初日には下剤中止、おむつをはずしてトイレでの排泄に切り替えます。ポータブルトイレや「ふんばる君」を利用して転倒防止に努めたり介助が二人必要な場合もあったりしますが、まずはトイレに座っていただくことから始めます。トイレに座る際、下肢に力をいれるような介助をすることにより生活動作の中で訓練することができ、立位能力の向上も早まります。
それから水分の摂取も重要です。1日1500mLは飲んでいただくように提供しています。また、オリゴ糖やセンナ茶、食物繊維を利用し、自然排便を促すようにしています。
グアーガム分解物を選んだ理由
(八重樫管理栄養士)
下剤を廃止する一方で、排便コントロールには食物繊維を使うことにしました。もともと個人負担で食物繊維を使用している方はいたのですが、施設全体として使うことになり、改めて選定することにしました。
まず問屋さんを通じていろいろな食物繊維のサンプルを取り寄せて皆で味見をしました。その中でグァーガム分解物(PHGG)のサプリメントはとても溶けやすく、無味無臭で全然違和感がありませんでした。
また、1kgタイプの大袋で使い勝手がよく、コスト面でもよいということがありました。そこで試しに使い始めてみたところ、3ヶ月程度様子を見る予定だったのが1ヶ月もたたずに排便への影響が見られたので、そのまま採用することになりました。
これまでの排便コントロールと下剤廃止への抵抗
(安田看護師)
以前は排便がない日が3日続くと下剤、浣腸を使うパターンでした。浣腸は一時期ピークで月に200本以上使っていたんですよ。それが今は平均的に30本弱になりました。現在、下剤を常時使っている人は100人中6,7人しかおりません。
下剤を廃止するとよくイレウスになるんじゃないかということを心配される方もいらっしゃいますが、私も初めはそれが心配でした。しかし、この活動を始めて下剤を廃止してから数年間、実際にイレウスになった方は一例もありません。看護師たちも初めのころは1週間出ないと心配になっていましたが、毎日トイレの介助をすることでだんだんサイクルもわかってくるので、1週間くらい経てば出るわよ、という風に意識も変わってきました。
ファイバー入りのお茶を提供
(八重樫管理栄養士)
具体的にはファイバー茶として、コップ1杯あたり5gの食物繊維が摂れるように溶かしたものを、朝昼夕の1日3回提供しています。ですから基本的に1日15gです。
(安田看護師)
家庭の医学では、高齢者は5日間排便が無いことを便秘としています。それに準じて4日間排便がなかった方にグアーガム分解物を5g追加という指示を出します。そして、便が出るまで毎日5g追加を続けて、排便があったところで解消してもらいます。最大で1日に40gの方もいらっしゃいますが、ほとんどの方は5~6日くらいには必ず出ます。グアーガム分解物の量は個々の状態を見ながら増減しますので、中には5gで有効な方もいらっしゃいます。
水様便から立派なバナナ便に
(安田看護師)
下剤を飲むとどうしても便が緩くて、失禁してしまうとシーツや背中まで汚れてしまっていました。
でもグアーガム分解物を使うようになってそれが無くなりました。それまでは水様便だった方がちゃんと形のある立派なバナナ便が出るようになったのは感激でした。
職員のモチベーションも変わりました。今までは利用者さんがトイレに座りたいのにオムツにするというケアになってしまうこともありましたが、ご本人がトイレに行きたい場合には、じゃあトイレに行きましょうか、という風になり、それがその人のニーズに合ったケアかなと思います。
オムツ・下剤ゼロ運動を通して
(安田看護師)
活動を通して、利用者さんが外出する機会が増えていると思います。
みなさん昼間は部屋にいる方はほとんどおらず、食堂やフロアにいらっしゃって、声を掛けてくださったり、歌声が聞こえたりと明るい雰囲気になりました。
他職種のチームとの連携ができ、協力体制が出来たことによって他の活動にも影響しているように思います。
よく施設長が言うのですが、オムツゼロは手段であってゴールではないのです。自立支援のひとつの手段なんですね。それによって看取りケアもできるようになりましたし、誤嚥性肺炎も少なくなっています。
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