介護老人保健施設での栄養管理
ほほえみの里 様
おひさま通信NEW15
- 介護
三陸海岸を代表する都市の一つであり、豊かな自然環境に恵まれた、本州最東端のまち岩手県宮古市に位置する介護老人保健施設ほほえみの里様は、青森県、岩手県、宮城県、福島県、新潟県で予防・医療・介護・教育を中心とした事業を展開している東北医療福祉事業協同組合/SGグループのご施設です。
ご利用者様一人ひとりの状態に応じた総合的なケアを実践しており、在宅復帰に向けたケアについて、管理栄養士佐々木様にお話を伺いました。
管理栄養士 金澤様(左)
管理栄養士 佐々木様(右)

毎月血液検査を実施しております
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貧血の方への対策
検査値からヘモグロビン値をチェックし、数値の低い方には施設長(医師)の指導の下、特別食(貧血食)を提供しております。加算を算定し栄養ケアを実施するうえで、完食していただかないと提供している意味がありません。
どうしたら美味しく残さず召し上がっていただけるのか色々検討した結果、鉄味がせず料理の味を変えない顆粒タイプの鉄補給剤を活用することになりました。鉄入りのジュースやゼリーもありますが好みが分かれ、中にはお召し上がりいただけない方もいらっしゃいます。一人ひとりの嗜好に合った物に簡単に混ぜて提供できる顆粒タイプの鉄補給剤はとても重宝しております。 当施設では昼食のお味噌汁に混ぜて提供することが多いです。お味噌汁が苦手な方には、スープに混ぜたり、缶詰の果物を提供する際のシロップに溶かして提供したりすることもございます。口当たりの良いものしか召し上がらない方もいらっしゃるので、その方にはアイスに混ぜて提供しております。
看護・介護職とも密に情報交換し、その方がどの料理なら残さず食べられるか把握し、食が細い方にもその方の残さず食べられる料理に混ぜて活用することで、確実に鉄分補給ができるように取り組んでおります。そういった個別対応ができるのも利点です。
当施設では1kgの大容量タイプを使用しているのですが、コスト面を考えても大変助かっています。

一人ひとりに合った食事提供
みんなと同じものが食べたい!
ここは病院ではありませんので、食事制限が必要な方でも、できる範囲で希望を取り入れております。
90代女性、A様の例を紹介します。
グループホームより転所された方で、認知症の症状があります。親族がいらっしゃらない方なので、差し入れで嗜好品を召し上がる機会がございません。食に対して強いこだわりがあり「好きなものを好きなように食べたい!」という方です。
既往歴に糖尿病とありましたが、カロリー制限や服薬などの医師の指示はなかったため、米飯・常食1,600kcalでの提供を行っておりました。しかし入所約4ヶ月後にHbA1cが高値である事が判明し、医師の指示の下カロリー調整を行うことになりました。
炭水化物の量を調整しようと、米飯からお粥への変更を提案しましたがそれを拒否。施設方針として、お薬ではなく食事でなんとかしてあげたいという思いもありました。
Aさんにお話を伺ったところ、みんなと違う食事=差別 という認識があるようでした。それともう一つ、差し入れが無いため、施設で提供される食事が楽しみとなっており、デザートも含め、変更することはA様にとってとても大きな負担となってしまうようでした。
そこで、おやつを食べたいなら、ご飯の量を調整してみるのはどうかと提案し、納得していただきました。食形態の変更は行わず、ご飯の量を140gから徐々に減らし60gとし、1,200kcalまで下げ経過観察を行いましたが、HbA1cの数値に変化は見られませんでした。
そこで当施設で排便コントロールに活用していた高発酵性の水溶性食物繊維(イヌリン配合のグァーガム分解物)を血糖コントロールにも利用できるのでは?と考え、昼食のお味噌汁に6gでの提供を行いました。A様は食へのこだわりが強い方なので、味に変化があると拒否されてしまう可能性がありましたが、違和感もなくお召し上がりいただけました。

A様のHbA1c、血糖値推移表
使用開始から6ヶ月経過した頃より、HbA1cの数値が安定してきて効果を感じました。
常食との差をつけることなく糖尿病の数値管理を行うことができ、A様の希望する「みんなと同じものが食べたい!」を叶えることができました。
また、当初A様の水分補給はお茶のみでしたが、イオン飲料も飲みたいという希望があり、数値も落ち着いてきたので、希望通り提供することになりました。それでも数値は安定しております。服薬もございませんので、うまくコントロールが出来ていると思います。
A様だけでなく、例えば塩分制限がある方などのお食事も、全てダメと制限するのではなく、代替案を検討し、一人ひとりに合った食事提供を心がけております。

春のお花見献立
在宅復帰に向けPHGGの活用
現在3名のご利用者様が使用中です。糖尿病の方と排便管理が必要な方が対象です。
重度の認知症の方の排便コントロールにも役立っております。訴えはできなくても、体調が悪いと不機嫌になることもあり、高発酵性の水溶性食物繊維(イヌリン配合のグァーガム分解物)をお食事に混ぜて提供しております。
使用するようになってから上手くコントロールが行えており、お薬は頓服で使用する程度になりました。
在宅復帰は、①食事が自分で食べられるか? ②自力で排便できるか?が大きな鍵となります。
お食事は食形態を気にされるご家族が多いです。刻み食は対応できても、在宅でミキサー食を作るのは手間もかかり難しいと相談されます。当施設では配食サービスも行っているので、そういった食事の悩みにも対応しております。
排便に関しては、ご自宅にリハビリスタッフが訪問し、排便動作の確認を行い、アドバイスを行っております。当施設はヘルパーステーション、訪問看護、通所リハビリ等の在宅サービスが揃っており、在宅に戻られてからも何らかのサービスをご利用いただいている方が多いのが特徴です。排便コントロールにPHGGを使用されていた方は、在宅に戻られても継続使用を希望される方が多いです。
高齢の方にとってインターネットでの購入は難しいようですが、PHGGは近隣の薬局でも取り扱っているので、在宅へ復帰されてからも紹介しやすいです。
2度の大災害を経験して
東日本大震災直後、当施設には救援物資がすぐに届いたので、それほど物資に困る事はありませんでしたが、この時に非常食の見直しを行いました。
また、平成28年台風10号上陸の際も岩手県は甚大な被害を受け、当施設も停電しました。自家発電設備があるため防災訓練の際に電源の確認などを行っていたので大丈夫と思っていましたが、実際にはミキサーくらいの機器は動かせても、洗浄機、加熱調理器は使用できない状況でした。また、水道はポンプで汲み上げていたため使用できませんでした。
これら2度の災害を経験し、非常食だけではなく、作業工程の見直しも行いました。
冷凍庫に解凍のみで食べられるやわらか食を常備し、調理器具にたよらず提供できる物を用意したり、食器を洗浄できないことを考え、個包装タイプも用意するようにしました。
使い捨て食器も準備はしましたが、長期になると在庫が足りなくなる事が懸念されますし、ご利用者様の中には紙皿、紙コップが持てない方もいらっしゃいます。紙コップには取手付きの物もありますが、握力のない高齢者には使いにくさを感じます。
色々と検討した結果、通常使用している食器にラップをかけ使用するのが一番便利かな?と感じました。
自家発電があるご施設は増えてきているかと思いますが、使用できる電力が実際は小さい事もありますので、電源確認だけではなく、アンペアの確認をし、どの調理器具なら使用可能なのか?など事前に確認することをお勧め致します。