重症心身障がい児(者)の栄養面の取組みについて
社会福祉法人 方城福祉会 方城療育園 様
おひさま通信NEW24
2023-06-07
- 医療
福岡県にある方城療育園は、重症心身障がいを持つ方々の命の尊厳をテーマに「やさしい心のふれあい」を合言葉に、医療と福祉の両面から療育に取組んでいる施設です。今回は、栄養管理課 課長の松岡修史様にお話を伺いました。

栄養管理課
課長 松岡修史 様
栄養面で関わることができる症状
重症心身障がい児(者)に多い症状の中で、方城療育園では特に便秘、低ナトリウム血症、鉄欠乏性貧血に関して栄養面でも関わっています。

社会福祉法人 方城福祉会 方城療育園
便秘は、寝たきりの方だと腸の蠕動運動が弱くなって、いわゆる弛緩性の便秘になりやすいということが一つの原因で、もう一つはお薬を飲むことによる、薬剤性の便秘が考えられます。あと、重症心身障がい児(者)の方は、食物繊維の摂取基準を充足することが難しく、これも原因の一つと考えられます。
重症心身障がいをお持ちの方は標準体位よりも小さい方もいらっしゃいますし、摂食嚥下の状態が悪く、量をあまり食べることができない方もいらっしゃいます。摂食嚥下の状態が悪いと、ペースト食、ミキサー食を提供するのですが、水分を加えますので、非常に量が多くなります。摂食嚥下の状態が悪いのに、量も摂らなければいけないという食事形態的なジレンマが起き、全量を摂っていただくことが難しい方もいらっしゃいます。それに伴い、食物繊維摂取不足を招きます。
看護課では、腹部マッサージを行うなど個別対応を行っています。ただ、全員の方に効果があるわけではなく、薬剤に頼る方もいらっしゃいます。
栄養管理課では「日本人の食事摂取基準」における食物繊維の目標量を満たす取り組みを行っています。目標量を食事で摂るためには、結構な食事量を摂る必要がありますが、寝たきりの方や、ペースト食、ミキサー食の方はそもそも食事量を確保することが難しく、それに伴い食物繊維の摂取量が下がってしまいます。そのため、当施設では全員の方に対して、水溶性食物繊維を朝食時に提供しているみそ汁に6g、15時の水分補給時のお茶に6gと、食事由来の食物繊維とは別に計12g/日(食物繊維として10.2g)追加しています。そうすることで1日当たりの食物繊維の目標量を充足するようにしています。
不溶性食物繊維は便の量を増やす作用、水溶性食物繊維は腸内環境改善、生活習慣病の予防効果がありますが、追加する食物繊維を採用するにあたり、当施設では後者の効果を期待し選択しました。また、当施設の献立で、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維の割合をみると不溶性食物繊維の割合が多いため、追加するものは水溶性食物繊維の方が良いと考えました。
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低ナトリウム血症改善のためのケア
低ナトリウム血症の一般的な原因として、心疾患、肝障がい、腎障がいなどがあります。また、抗てんかん薬を飲まれている方でも低ナトリウム血症を起こすことがあります。
方城療育園では、医師が低ナトリウム血症の方で必要と判断した場合、具体的に「この方には食塩を○g追加してください」と個別指示が出ます。お食事を経口摂取される方には、ごはんに指示分の食塩をかけて提供します。
経腸栄養剤の方には、分包された1gの食塩を経腸栄養剤に貼って病棟へ提供しています。追加された食塩は経腸栄養剤に混ぜるのではなく、経腸栄養剤の前に注入する水に溶かして摂取してもらいます。
QOLを下げない鉄付加食
鉄欠乏性貧血も、食物繊維摂取量と同じ理由から、食事量を十分に確保できない方が低栄養や鉄欠乏性貧血を起こすことがあるため、食事からのアプローチを図っています。
方城療育園では、鉄欠乏性貧血改善と診断された場合は、栄養管理課に鉄付加食のオーダーが入ります。 その鉄付加食について、過去、当施設では試行錯誤してきました。25年前は鉄付加食のオーダーが入った方に対し、もれなく砂糖と醤油で甘辛く煮付けた豚レバーを朝食に提供していました。実は私自身がレバーは苦手でして、これを毎日食べる患者様も大変ではないかなと考え、他の鉄付加食の検討を始めました。
そんな時に出会ったのが栄養機能食品として販売されている「顆粒タイプの鉄補給剤」です。ただ、緑茶に入れたところ、お茶がすごく黒くなってしまったため、最初は何に入れて提供するのか、色々検討しました。当施設では、朝食時に味噌汁またはスープなど汁物を提供することが決まっているため、朝食時の汁物に入れることにしました。味がしないので患者様も全く問題なく召し上がっていただいています。
鉄入りゼリーなどの鉄強化食(品)があるのはもちろん知っていますが、食事量を増やすというのは特に摂食嚥下障がいを持つ方にとって負担となります。患者様の中には、嚥下状態が悪いため汗をかきながら一生懸命にお食事されていらっしゃる方もいらっしゃいますし、無理して食べることにより誤嚥のリスクも出てきます。そういう方々の食事量を増やすことはできません。
もちろん、医薬品の鉄剤を処方した方が鉄の補給量を多く確保できます。しかし、一部の鉄剤だけですが飲み込むまでの時間が長くなることで歯が黒くなってしまうことがあります。重症心身障がい児(者)の方は摂食嚥下に障がいがある方もいらっしゃいますし、障がいにより飲み込むことに抵抗を覚える方もいらっしゃいます。そのために、当施設では歯が黒くなってしまう事例
が多く見られました。それは患者様にとって不利益なことです。
方城療育園で重症心身障がい児(者)の貧血に対する栄養管理に「顆粒タイプの鉄補給剤」を使い続けている理由は、鉄の補給のみならず、量、味を大きく変えることなく摂取でき、歯への着色もないことが理由です。
これからも、栄養補給だけでなく、患者様の負担軽減に繋がるような栄養サポートを、模索し続けたいと思います。
